診療情報管理士業務指針

平成30年(2018年)3月

1.趣旨

2.診療情報管理業務の基本的な考え方

1)患者中心の医療の実現と質の高い安心・安全な医療の保証

2)チーム医療の促進と情報共有の徹底

3)個人情報の保護とセキュリティの確保

4)「説明と同意」に関する文章、および「入院診療計画書」等の点検と整備

5)診療情報の「コード化」の進展への対応

6)診療情報の活用範囲の拡大と大規模データベースの構築

3.診療情報管理の業務と実施方法

1)診療情報を体系的・一元的に管理する業務とその実施方法

  1. ①診療情報の管理体制の整備に関する業務と実施方法
  2. ②診療情報を体系的・一元的に管理する基本的な方法と課題
  3. ③診療記録の迅速な完成を支援する業務と実施方法
  4. ④チーム医療の円滑な実施に向けて情報共有を支援する業務とその方法

2)診療情報を安全に保存管理する業務

  1. ①診療情報の漏えい・棄損・改ざんを防止する業務とその方策
  2. ②事故または災害時の診療情報管理業務と事前の方策

3)診療情報を点検・管理する業務

  1. ①必要な診療情報が記録されているか点検する業務と実施方法
  2. ②診療情報の内容が適切かつ合理的に記録されているか点検する業務と実施方法
  3. ③安全で質の高い医療が提供されたか評価する取り組みを支援する業務と方法

4)個人情報としての診療情報を保護する業務

  1. ①個人情報保護に関する規則を整備してその周知・徹底を図る業務
  2. ②診療情報の閲覧・参照、またはアクセス権限に関する規則を整備し運用する業務
  3. ③患者自身の診療情報についての開示請求に対応する業務とその方法

5)病院の管理・運営のための業務とその実施方法

  1. ①診断名等のコード化と分析業務
  2. ②退院時要約を始めとする診療情報による管理統計業務
  3. ③医療の質と安全の確保に向けた業務とその方法

6)診療情報の活用に向けたデータ処理・提供業務

  1. ①診療情報の研究・教育への活用のための業務
  2. ②法に基づいた診療情報提供の要請に対応する業務

4.今後、診療情報管理士に期待される役割

1)診療情報管理部門の組織としての確立

2)保健医療分野における電子的診療情報の整備を促進する役割

3)地域における情報共有と医療・介護の連携推進を支援する役割

4)WHOの動向を踏まえて診療情報管理の発展と普及を推進する役割

5.結語

1.趣旨

診療情報管理は、質の高い安全・安心の医療を提供するうえで、極めて重要な意義と役割を有する。医療を提供するために実施された診療・看護、および関連する諸サービスの実施の事実とその経過、ならびにその所見や結果が、正確かつ論理的に記録されることで、それらが妥当で適切なものであったのかを検証・評価することが可能となり、医療の質と安全性の向上に繋がるからである。

日本診療情報管理学会は、診療情報の管理・点検と、それに関連した業務を専門的に行う診療情報管理士が、円滑かつ合理的に業務を実施し、医療提供における本来の役割を担い得るように、2011年に「診療情報管理士業務指針」を取りまとめて公表した。それから約7年が経過し、診療情報を取り巻く環境は大きく変化しつつあり、診療情報管理業務も拡大して、診療情報管理士への期待もますます高まっている。

そこで今回、診療情報管理業務の現状と今後の動向も踏まえて、業務指針を見直すこととした。この「診療情報管理士業務指針 2018」は、先に改定された「診療情報の記録指針」(旧診療録記載指針)と整合が図られている。また、指針策定の原点は、本学会が倫理綱領に掲げる「診療記録の正確な記載と責任の明確化」にあることは、当初から何ら変わるものではない。本指針が、診療情報管理業務の遂行にあたって十分に参照され、業務の一層の充実と、質の高い安全・安心の医療を提供することに寄与することで、専門職としての診療情報管理士の地位の向上と身分の確立につながることを期待する。

2.診療情報管理業務の基本的な考え方

診療情報管理士は、その業務を実施・遂行するにあたって、次の事項に十分に留意する必要がある。

1)患者中心の医療の実現と質の高い安心・安全の医療の保証

医療の目指すべき基本的な方向は、患者中心の医療の実現であり、診療情報管理士は医療従事者の一員として、この基本的な価値観を共有しなければならない。そのうえで、記録された診療情報を適切に管理・点検し、患者に提供された医療内容に関する検証・評価に資することで、質の高い安心・安全の医療を保証する役割を担うべきことを認識する必要がある。

2)チーム医療の促進と情報共有の徹底

医療が高度化し、他部門・他施設との連携強化が求められるなかで、複数の専門職による「チーム医療」の実践が必須となり、広く普及しつつある。多様な専門職がチームとなって共通の目的のために業務の分担と連携を図るためには、患者の診療情報を相互に参照し、共有することが前提となる。診療情報管理士は、診療情報の標準化・共通化と相互の参照手順の整備に関与し、診療情報の共有を徹底することに努める必要がある。また、近年は地域内の他施設や関連機関との円滑な連携を図る必要性が高まっており、そのために活用すべき診療情報の範囲や、情報共有のあり方の検討にも参画することが求められる。

3)個人情報の保護とセキュリティの確保

診療情報は、極めて守秘性の高い個人情報であり、医療従事者には守秘義務が課せられているとともに、「個人情報の保護に関する法律」によって厳重に保護されている。診療情報管理士は、守秘義務を遵守するとともに、同法の趣旨と運用方法について十分に理解しておかなければならない。個人情報の保護とその活用のあり方については、「個人情報の適切な取扱のためのガイダンス」に基づいた対応が必要である。また、個人情報としての診療情報について、その漏えい、棄損、改ざん等の防止に努めなければならない。

4)「説明と同意」に関する文書、および「入院診療計画書」等の点検と整備

医療を提供するにあたって、所定の手術・処置等に関する「説明と同意」文書(インフォームドコンセント)の作成と、クリティカルパス等を含む「入院診療計画書」の整備は、患者中心の医療を実践するうえでの基本的な手順である。診療情報管理士は、これらの文書の様式や運用手順の整備に関与するとともに、その確実な実施を図るために、各文書の有無や記録内容について点検を行う必要がある。これらの文書の作成は診療報酬上の要件とされているものもあり、不備がある場合は迅速に指摘し、その整備を支援することが求められる。

5)診療情報の「コード化」の進展への対応

診療情報管理士にとって、診療情報を「コード化」し、対象となる患者や集団についての情報を収集・分析・加工をすることは、専門職としての基本的業務である。この業務については、ICD(国際疾病分類)のコード化と、診療報酬上のDPC分類体系の運用が主として行われてきたが、今後はICD新版への移行対応とともに、WHO国際統計分類(WHO-FIC)の中心分類でもあるICF(国際生活機能分類)、およびICHI(国際医療行為分類)についても理解を深め、医療・介護・保健分野の様々な課題を統計的に解析する能力を身に付ける必要がある。診療情報管理士は、診療情報の「コード化」の進展に遅れることなく対応し、求められている医療・介護と生活の質の継続的な改善に向けた情報化の取り組みに、積極的に参画して行く必要がある。

6)診療情報の活用範囲の拡大と大規模データベースの構築

適切に管理された診療情報は、提供された医療の適切性と安全性の観点からの検証・評価に活用されるべきである。蓄積された診療情報は、個人情報の保護に最大限の配慮が必要であることは言うまでもないが、医学研究や医療専門職の教育・養成のために必須である。病院の管理・運営においても、診療報酬請求はもとより、患者構成や重症度の分析、入退院経路による医療連携の把握等に活用されている。

近年はDPCデータにより病院機能の精緻な分析が可能となり、将来に向けた地域医療構想の策定にも利用されるなど、活用範囲は飛躍的に拡大している。今後の医療提供は、在宅療養を含む地域包括ケア体制に移行することが見込まれているところから、診療情報の範囲はさらに拡大し、その適切な管理と有効な活用が強く求められている。

最近、国は健康・医療・介護を統合した全国的な大規模データベースを構築し、総合的なネットワークの整備による新たな保健医療体制を目指すとしている。このような動きは、診療情報の活用の範囲や運用の枠組みが大きく変わることを意味しており、診療情報管理に新たな対応を迫るものである。診療情報管理士は、急速な展開を見せているこのような動向も見据えて、今後の診療情報管理のあり方と業務内容について検討する必要がある。

3.診療情報管理の業務と実施方法

診療情報管理業務は、診療情報管理士だけで行われるものではなく、関連する医療従事者・関係者との分担・連携によって実施されるものである。診療情報管理士は、診療情報管理の専門職として、その業務の本来の趣旨・目的を理解し、必要となる業務内容とその実施の方法・手順を明確にして、業務の遂行を主導することが期待されている。

1)診療情報を体系的・一元的に管理する業務とその実施方法

  1. 診療情報の管理体制の整備に関する業務と実施方法

    診療情報管理士は、診療情報管理委員会等における検討を経て、診療情報の管理方式、設備・機器の設置、診療情報管理のための諸規則等の整備に努めなければならない。そのためには、必要に応じて情報システム管理部門と密接に連携する必要がある。

    診療情報は所定の様式と手順で記録し、患者ごとに体系的に集約するとともに、看護・薬剤・検査等の各部門から発生する診療情報、あるいは複数診療科を受診して発生した他科の診療情報も一元的に参照できるような診療記録とする。診療情報の記録のあり方については、本学会の「診療情報の記録指針」を参照する。

    診療情報の体系的・一元的な管理のためにはIT化が最適であり、電子カルテの運用や、各部門における情報機器の導入に積極的に取り組む必要がある。また、地域における他の関係機関とのネットワークシステムが運用されている場合は、診療情報の共有や提供のあり方について検討する必要がある。

  2. 診療情報を体系的・一元的に管理する基本的な方法と課題

    診療情報を施設内で体系的・一元的に管理し、過去の入院・外来の診療情報についても参照可能とするには、「1患者1ID 1診療記録」とすることが合理的である。この考え方により、終生同一の診療記録として永続的に管理することで、他の患者の診療情報の迷入や診療記録の取り違えを回避することができる。年次ごとに更新される退院番号など、異なる考え方の方式で運用されている患者番号は見直される必要がある。

    「1患者1ID」制で運用していても、当該患者の救急受け入れや氏名変更等に伴って、別のID番号が付与されてしまうことがある。健診受診者に対する別番号の付与、連携先の医療機関のID等の併用もあり得る。国は、マイナンバーに紐付けされた固有番号制を導入することも検討している。診療情報管理士は、ID番号の運用を変更しなければならない事態が生じたときには、現実的な対応策を提案し、業務に混乱をきたさないような方策を講じる必要がある。

  3. 診療記録の迅速な完成を支援する業務と実施方法

    診療情報は業務の実施後、迅速に記録され、参照可能とするようにしなければならない。入院医療については、退院後、遅滞なく入院診療記録として完成される必要がある。

    診療情報管理士は、量的点検業務等によって完成状況を把握し、迅速な完成を促進・支援する必要がある。退院時要約の作成は診療報酬の要件ともなっており、遅滞があれば、診療情報管理委員会等を介して督促することも考慮する。「説明と同意」に関する同意文書や、入院診療計画書についても同様である。

  4. チーム医療の円滑な実施に向けて情報共有を支援する業務とその方法

    チーム医療を有効に実施するために、医師の診療記録とともに、看護記録、服薬管理記録、栄養指導記録、リハビリテーション記録等の各部門の診療情報を一元的に管理し、相互に容易に参照できるように整備する必要がある。また、診療科間相互の参照を容易にし、例えば薬剤の重複投与や重複検査を回避できるような仕組みにしなければならない。

    NST、ICT、緩和ケアチーム等のチーム医療が実施された場合、その実施内容や経過に関する診療情報は、当該患者の診療情報として一元的に管理される必要がある。他科・他部門との、あるいは多職種による合同カンファレンスの記録についても、当該患者に関する内容は、患者の診療情報として統合されなければならない。他施設や在宅医療との連携に重要となる入退院支援記録についても同様である。

    診療情報管理士は、各部門の記録やカンファレンス記録に不備がないか重点的に点検し、必要であれば改善を要請する。また、診療科間や部門間の情報共有や相互参照に問題があれば、診療情報管理委員会等において検討し、問題解決に努める。診療情報管理士も、多職種による合同カンファレンスに、円滑な情報共有を支援する立場から参加することを考慮する。

2)診療情報を安全に保存・管理する業務

  1. 診療情報の漏えい・棄損・改ざんを防止する業務とその方策

    診療情報は医療提供の実績を示す基本情報であるとともに、厳重に守秘されるべき患者の個人情報である。したがって、その漏えい・棄損・改ざんは回避されるべき最大の課題となる。診療情報管理士は、情報システム管理部門と連携してシステム機能上の対策・整備を行うとともに、国の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠して運用上の規則を定め、その遵守・励行に努めなければならない。

    診療情報を記録・参照する場合の職員のIDとパスワードの運用、端末からのログイン・ログアウトの手順、記録の削除・訂正または改変の方法、代行者による記録の扱い等の規則の徹底は、診療情報の安全な保存・管理のうえで基本的事項である。

    インターネットを含む外部のネットワークと内部システムとの接続は、不正アクセスを防止するための最大限の技術的対策を取ったうえで、安全な保存・管理が担保された方法と手順で、情報の参照や移転を実施する。

    医学研究や教育・研修、あるいは医療従事者の業務実績の記録として、診療情報を利用しようとする場合は、原則として、診療情報そのものは外部には持ち出してはならず、各施設で定められた個人情報管理区域のみで利用可能とする。また、診療情報は承認された目的以外では利用せず、診療情報を格納した媒体は必ずパスワードを設定する。ログインアカウントとパスワードを設定したパソコンを使用し、パソコンを使用しない時は、原則として金庫等で施錠して保管する。使用後の診療情報は速やかに破棄されなければならない。

    どうしても、診療情報を外部で使用しなければならない場合は、患者が特定されないように匿名化したうえで、所定の手続きを経て持ち出す必要がある。匿名化が不十分なままメモリやパソコンにコピーし、外部で紛失、または盗難等にあった場合は、応分の管理責任を問われるので十分に留意する。

    診療情報管理部門、および情報システム管理部門の各部屋への入退出は厳重に管理し、部外者の自由な立ち入りは禁止する。情報機器の廃棄、または転用の場合は、残存データを完全に消去する処理を行う。

  2. 事故または災害時の診療情報管理業務と事前の方策

    情報システムの更新時や診療報酬改定時のプログラムの見直し等に伴って、システムダウンが起こり得る。診療情報管理士は、情報システム管理部門や診療報酬請求部門等と連携して、事前にシステム障害時の対応手順を、マニュアルとして詳細に定めておく必要がある。BCP(Business Continuity Plan)の考え方に従って、障害発生時の業務の継続に向けた計画・手順を作成しておくことにより、現場の混乱を最小限に抑え、復旧後に円滑な業務の再開を図ることが可能となる。

    災害時には、その規模によっては設備・機器の損壊を伴う壊滅的な被害が経験されている。情報システムの運用が長期にわたって不可能になることも想定し、そのような場合でも一定の診療が継続できるように、遠隔にある別システムへ必要な診療情報をバックアップしておく方策がある。地域において災害拠点の役割を担う医療機関では、このような方策を検討する必要がある。

3)診療情報を点検・管理する業務

  1. 必要な診療情報が記録されているか点検する業務と実施方法

    診療情報管理士は、医療従事者が診療業務を実施した際に、診療情報の記録指針等で体系化された一連の診療情報が、遅滞なく記録されているかを点検する必要がある。入院医療においては、所定の様式で必要な診療情報が記録され、定められた順序で整えられているかについて、診療情報管理士が退院時に確認することは、量的点検として定着した業務になっている。

    「入院診療計画書」、所定の手術・処置、検査等についての「説明と同意」文書、アレルギー・禁忌情報、手術・麻酔記録、画像検査における診断所見、「退院時要約」等、入院診療情報として必須である記録の有無を点検・確認する。量的点検の結果は記録者にフィードバックされ、記録の整備・補完が督促される必要がある。これらの記録の整備が遅滞している場合は、診療情報管理委員会等を介して適切な対応をとる。

    さらに、記録者の有無、時系列的な順序での記録の整備、関連した部門記録、チーム医療記録、カンファレンス記録、入退院支援記録など、患者の入院目的に応じた記録として不備はないか点検・確認する。

    電子カルテを運用している場合は、記録不備の時にアラートを出し、記録ミスや記録間の不整合がある場合にエラーチェックがかかるような機能を活用して、量的点検を効率的に行うように工夫する。

  2. 診療情報の内容が適切かつ合理的に記録されているか点検する業務と実施方法

    記録された診療情報は内容が明快で、職種間で容易に理解できるように略語等の多用を避けて記録され、診療情報として論理的な不整合がないことが必要である。診療情報管理士は、これらの観点から診療記録の合理性と有効性について確認し、質的点検業務を主導する。

    傷病名と処方・処置・手術等との整合性、侵襲のある処置・手術と「説明と同意」文書の内容の適切性、入院診療計画の内容と入院目的や入院期間の妥当性等について、診療情報管理士として点検し、必要であれば改善・整備の支援を行う。

    各部門記録間での不整合、チーム医療記録の診療への反映、合同カンファレンス記録の参照状況など、一元管理されている診療情報を共有して、有効にチーム医療に活用しているかを点検し、問題点があればその改善に努める。質的点検は、検討の必要性の高い課題を選定し、診療記録を重点的に抽出して、効果的に行う必要がある。

  3. 安全で質の高い医療が提供されたか評価する取り組みを支援する業務と方法

    医療の質的水準と安全性を評価するには、医師・看護師を含む全病院的な取り組みが必要となる。診療情報管理士は、多岐にわたる診療情報から、検討対象となる症例を抽出し、評価に必要な診療情報や数値・指標を準備する役割を担う。これは、診療情報の質的点検の一環を成す業務でもある。

    例えば、「入院経過中の予期せぬICUへの入室」、「診療計画では想定外の長期入院」、「退院後の早期の再入院」などの出来事があった症例を抽出し、分析チームにその原因や背景となり得る診療情報を提供する。

    また、「院内死亡率」、「悪性疾患の5年生存率」、「術後の合併症発生率」などのアウトカム指標、あるいは「急性心筋梗塞症例における救急搬送到着時からPTCA実施までの時間」、「検討対象症例の診療ガイドラインで必要とされた薬剤投与の有無」などのプロセス指標などを算定・計数して、医療評価検討の基礎資料として準備する。

    診療情報管理士は、診療情報点検の過程で、医療の質的水準または安全性に問題があると思われる症例・事例に遭遇した場合は、関連の委員会等において積極的に問題点を報告して対応策を提案するなど、病院の質・安全の向上の取り組みに積極的に関与する必要がある。

4)個人情報としての診療情報を保護する業務

  1. 個人情報保護に関する規則を整備してその周知・徹底を図る業務

    診療情報管理士は、厳重に守秘されるべき個人情報である診療情報を扱う立場から、関連する委員会等において個人情報に関する具体的な規則を定め、その周知・徹底と厳正な運用を図る必要がある。

    規則の立案と運用にあたっては、国の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に準拠することが適当である。診療情報管理士は、同ガイダンスを十分に理解して自ら遵守するとともに、医療従事者・関係者による患者の個人情報の収集、記録、保有、利用等が適正に行われるように支援する役割を担う。

  2. 診療情報の閲覧・参照、またはアクセス権限に関する規則を整備し運用する業務

    医療従事者には患者についての守秘義務が求められるとともに、診療情報の閲覧・参照をする場合に、職種や立場に応じた一定の制約を設けることが適当である。電子化された診療情報システムでは、患者データへのアクセス権限を明確に定める必要がある。ただし、チーム医療の円滑な実施を阻害することのないよう配慮しなければならない。

    診療情報管理士は、情報システム管理部門等と連携して、診療情報管理委員会において、職種ごとに、診療情報へのアクセス範囲を定めなければならない。その際、参照の可・不可、および記録の可・不可を明確にした規則とする必要がある。アクセス権限の運用はシステム側の設定により行われるが、「成り済まし」による不正アクセスを防止するためにも、職員のID・パスワードは厳正に運用されなければならない。

    病院関係者や特定個人に関するアクセス制限、傷病や診療・看護等に直接かかわりのない社会的・経済的な患者情報の扱い等についても検討する必要がある。

  3. 患者自身の診療情報についての開示請求に対応する業務とその方法

    個人情報保護法に基づき、患者は自分の個人情報(保有個人データ)である診療情報の開示請求を行うことができる。請求があった場合、事業者である医療機関は遅滞なく開示する必要があり、診療情報管理士は個人情報担当者と連携して、当該患者による保有個人データの閲覧、または書面として交付する業務を行う。

    開示の方法は、診療記録の謄写、または印字した書面の交付が一般的であるが、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を十分に参照して実施する。交付された書面は、訴訟に向けた証拠または資料とされる場合があるので、開示された診療情報の内容や範囲について、十分に留意して把握しておく必要がある。

5)病院の管理・運営のための業務とその実施方法

  1. 診断名等のコード化と分析業務

    医師が診断した患者の傷病名を、ICD分類により正確にコード化することは、診療情報管理士の本来的な専門業務である。全患者の病態を体系的なコーディングで情報化することは、病院の医療活動の実績を明確にするとともに、病院組織の適切な管理・運営のための基盤的な資料となる。

    病院の診療報酬請求のための情報は、DPCデータに見られるように、ICDコード体系を基礎に組み立てられている。DPCデータのICDコードは、実施された診療行為や医療費データと関連付けられて、病院機能の把握と経営管理において、極めて重要な資料となっている。

    診療情報管理士は、DPC制度、DPCデータの内容と整備手順を十分に踏まえて、医師の選択した主傷病名、副傷病名、DPC診断群分類等の妥当性等を検討する。そのうえで、退院時の確定主傷病名としてコーディングを行い、医師の確認を受ける。この点については、各病院の実態にあった適切なコーディング体制が構築されている必要がある。

    主傷病名別、または診断群分類別の患者構成を、診療科別に月次の動向で示すなどして、病院診療活動の実績を分析する。医事課等と連携して同様の診療収入の分析を行い、経営判断のための基礎資料とする。

    ICD分類体系は第11版への移行期にあり、DPC制度も見直されることが見込まれている。診療情報管理士は、診療情報に関する専門職として円滑な移行に向けた対応策を準備する必要がある。

    処置・手術のコード化、がん登録等のレジストリ業務、重症度、医療・看護必要度のスコア、ADLや認知症の区分など、患者の病態や特定の疾患に関するコード化、あるいは登録業務の範囲が拡大しつつある。病院の方針に沿って、診療情報管理業務として対応する必要がある。

  2. 退院時要約を始めとする診療情報による管理統計業務

    各診療科共通の様式による退院時要約情報は、入院医療の評価・分析に必須である。診療情報管理士は、退院時要約の迅速な完成を支援し、その情報に基づいた病院の管理・運営に関する基本的な統計分析を行う。先の診断傷病名等のコード化は、その前提となる業務でもある。

    在院日数分析は、効率的な病床運用の基本指標である。病院の平均在院日数、診療科別平均在院日数、診断群分類別在院日数分析、およびそれらの月次・年次の変動を見る必要がある。病床利用率と関連させて分析することで、病院の基本機能の推移を判断する。

    入退院経路の分析で、医療連携の現状と地域における役割を把握することが可能となる。病床機能の転換や在宅医療の促進、医療・介護の連携と地域包括ケアシステムの構築等の観点から、今後さらに重要な分析項目となる。

    手術・麻酔、主要な処置、主要な検査や画像診断等の実施件数の動向は、病院の診療実績を見る基本情報となる。ICU室の利用、化学療法やリハビリテーションの実施、NSTや緩和ケア等のチーム医療の実績等も、病院の診療活動の把握に必要である。これらのデータはレセプトデータからも抽出可能であり、医事課等とも連携する必要がある。

  3. 医療の質と安全の確保に向けた業務とその方法

    医療の質的水準と安全性を確保し、維持していくことは病院の管理・運営の基本である。診療情報管理士は、医療提供の過程で発生する診療情報に常に接しているので、医療内容の問題点を感知する機会が多いといえる。先に、診療情報の質的点検業務において基本的な方法を示したが、全病院的な医療の質と安全の確保に向けた取り組みにおいて、診療情報管理士の担うべき役割について認識し、積極的に関与する必要がある。

    病院は、医療の質的水準を維持するために医療安全委員会等を設置し、検討すべき臨床指標等を設定してその動向を見ることが行われる。診療情報管理士は、同委員会で指標の選択や提案を行い、それらの動向を報告することが業務となる。

    臨床指標には、高度な治療技術の成果指標、各診療分野のアウトカム・プロセス指標から、耐性菌の感染状況、褥瘡の発生率、転倒・転落件数、インシデント報告件数等、多岐にわたる。診療情報管理士は、これらの数値・指標の計数や算出に積極的に関与する必要がある。

    医師・看護師を含む調査チームが、検討対象の病棟と調査対象期間を定めて、全退院患者の診療記録の内容を網羅的に点検し、「予期せぬ大出血」や「想定されていない転院」等、あらかじめ設定した入院中の出来事の有無を検証することなども、医療の質や安全確保の観点から有益である。

    電子化された記録では、検索機能等を活用して、より効率的・効果的な検証が可能であり、診療情報管理士は医療安全の確保に向けたこのような取り組みに積極的に参画し、その役割を発揮することが期待される。

    死亡症例検討会やクリニカルパスにおけるバリアンス分析も、医療の質的水準と安全性の確保・向上のために有効であり、診療情報管理士も必要に応じて積極的に関与する必要がある。

6)診療情報の活用に向けたデータ処理・提供業務

  1. 診療情報の研究・教育への活用のための業務

    蓄積された診療情報は、多岐にわたる医学研究において、重要な検討対象となる。また、各医療専門職の臨床研修や臨地実習においても、対象患者の診療情報の提供は、症例の理解と学習のために不可欠である。これらの診療情報は最も配慮を必要とする個人情報であり、すでに触れた「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に準拠して対応する必要がある。

    診療情報管理士は、診療情報を扱う専門職として、関係者に同ガイダンスに沿った対応をするように支援する。また、調査・研究のためのデータの抽出や、教育・研修のための教材の提示にあたって、提供するデータの範囲を検討し、必要に応じて適切な匿名化の処理を行う。

    医療の担当者が、担当した患者の所見やデータを集積し、自らの診療実績として記録して研鑽を図ろうとする場合は、診療情報から抽出可能な範囲を規則で定め、氏名・年齢等の基本情報を適切に匿名化する。診療情報管理士は、その適正な運用に努めるとともに、外部に持ち出されたデータの紛失や盗難によって個人情報の流出の恐れがある場合は、必要な措置を迅速に講じる。

  2. 法に基づいた診療情報提供の要請に対応する業務

    警察または検察等の捜査機関から診療情報の提供を要請された場合は、手続きや手順が適正であることを確認したうえで、所要の範囲の診療情報を提供する。訴訟における証拠保全として、診療記録の原本の提供を求められる場合についても同様である。これらの診療情報の提供の要請には診療情報管理士が対応し、提供先とその目的、提供の日時と提供された診療情報の範囲等を適正に管理する。

    近年、がん登録制度、医療機能情報提供制度、病床機能報告制度等の、診療情報関連の提供制度が相次いで運用され始めている。また、国は健康・医療・介護を統合した大規模データベースの構築を目指して、全国の関係機関から特定の診療情報の提供を求めることが見込まれている。これらの、法に基づく診療情報提供制度に対応するためにも、診療情報管理士の役割が期待されている。

4.今後、診療情報管理士に期待される役割

1)診療情報管理部門の組織としての確立

診療情報管理の業務を円滑に遂行し、その役割を全うするためには、病院において診療情報管理部門が組織的に確立していることが望まれる。診療情報管理部門が病院管理者の直轄化にあり、診療情報を介して病院の診療活動全体を常に把握し、各診療科および院内各部門と容易に連絡調整ができるような体制となっていれば、病院の適切な管理・運営のために大いに有効である。このような組織的な位置付けと役割を持つ診療情報管理部門は目指すべき一つの方向であり、このような組織体制を既に実現して病院の発展に貢献している事例も少なくない。

わが国の病院は、その規模と機能、地域における役割等に応じて、診療情報管理の実情は多様である。当初、診療録管理は病歴室業務として医事課に属し、診療報酬請求業務の電算化と並行して診療情報管理の業務も徐々に充実してきたが、今なお診療情報管理部門としての組織的な確立と役割の発揮は不十分であるとする事例は多いと見受けられる。診療情報管理士は、本指針で示された診療情報管理の今後の方向性を受け止め、それぞれの立場で業務の充実と発展に取り組むことが期待される。

2)保健医療分野における電子的診療情報の整備を促進する役割

診療情報管理業務の実施には電子化が極めて有効であり、近年、医療現場において電子カルテは急速に普及している。しかし、その導入にあたっては、従来の紙カルテからの移行、診療情報の発生源入力、周辺業務における文書・書類の扱い、情報管理上のセキュリティや個人情報保護法等の課題がある。また、情報システムとしての標準化が不十分で、施設間での情報連携やネットワーク構築上の問題は大きい。

診療情報管理士は、診療情報の電子化を促進するために、適正かつ臨床実務に沿った電子カルテの普及・整備に向けて積極的に関与することが期待されている。そのためには、電子カルテの導入・運用に関する委員会への参画、電子カルテの適正使用促進に向けた医療者への教育・指導、進化する情報技術の活用、外部の関連施設・機関との連携促進等の課題に、主導的に取り組む役割を担う必要がある。

保健医療分野の電子化は以前から進められてきたが、開発したベンダーや運用主体によりそれぞれ発展してきた経緯があり、現段階ではそれらの標準化が大きく立ち遅れている。診療情報についても、各領域の用語や情報項目から分野・部門の設定、あるいは情報管理の方法など、共通化・共用化を図ることが困難な状況にある。入院診療の基本情報である退院時要約ですら、標準化された運用がなされているとは言い難い。診療情報管理士は、関連する学会や団体と連携・協力して、診療情報の標準化を促進する役割が期待されている。

3)地域における情報共有と医療・介護の連携推進を支援する役割

今後の医療提供の基本的方向は、医療・介護の連携強化により地域包括ケア体制を整備し、住民の医療、介護、居宅、予防、生活支援を一体的に確保しようとするものである。従来から、病院医療から在宅ケアへ移行することの意義が説かれてきたが、それが現実の流れとなってきたといえる。すでに、2025年に向けた改革のなかで、病床機能の再編や在宅への移行を促進する入退院支援等が推進されている。

医療・介護の連携強化と在宅ケアの充実が求められているなかで、病院医療を中心に発展してきた従来の診療情報では、情報の伝達や共有に不十分であることが認識されている。医療・介護の円滑な連携や生活支援のためには、傷病名に関連した情報だけでなく、要介護状態や生活動作能力に関する体系的な情報が必要であるが、ほとんど活用されていない状況にある。

WHO国際統計分類(WHO-FIC)の中心分類の一つにICF(国際生活機能分類)があるが、わが国ではほとんど利用されておらず、医療・介護の連携に有用であるか検証も不十分である。今後、国も介護の情報化に取り組む方針を示しているが、具体的な成果はこれからである。診療情報管理士は、医療・介護の連携強化の必要性と、従来の診療情報だけでは不十分であることを認識し、情報管理の観点から連携強化に向けた有用な方策を積極的に検討する役割を担うべきである。

4)WHOの動向を踏まえて診療情報管理の発展と普及を推進する役割

WHOにおけるICDの改定作業が進み、近く次期バージョンのICD-11への移行が見込まれている。改定の概要についてはすでに明らかにされているが、移行に伴う事前の作業や移行後の円滑な業務の実施のためには、事前の周到な準備が必要となる。コーディング業務もさることながら、DPC制度の運用も変更されることになれば、それに伴う作業も膨大になる。移行に伴う様々な業務については、診療情報管理士が適切に主導することが求められる。

国際的にみると、ICDコーディングが疾病・健康管理の主要な軸として考えられてきた時代は終わり、WHOの提唱する「国際統計分類群(ファミリー):WHO-FIC」という概念が、今後の新たな分類軸として認識されつつある。WHO-FICの中心分類には、ICD(国際疾病分類)とともに、ICF(国際生活機能分類)、ICHI(国際医療行為分類)が位置づけられ、これらを相互に関連付けてコーディングすることが重要である。

診療情報管理士の業務は、急性期医療の質の向上に向けた言わば縦方向への拡大と、急性期医療と在宅医療・介護の連携に伴う横方向への拡大が進行する。自らの立ち位置がいずれにあろうとも、診療情報の適切な管理と活用のためには、WHO-FICの中心分類コーディングが業務の基礎となる。診療情報管理士は、WHOや海外の関係団体の動向も踏まえて、今後の診療情報管理の発展と普及を推進する役割を担う必要がある。

5.結語

診療情報の範囲は、かつての傷病に対する診断・治療に関連する情報から、いまや健康に関連する包括的な情報へと拡大している。今後の診療情報管理は、Health Information Management(HIM)を意味するものとして、管理の対象を広範かつ重層的に捉えて検討して行く必要がある。

診療情報管理士は、このHealth Informationのマネジメントの専門職であるが、情報システムの研究・開発や現場への導入・運用を担う専門領域はHealth Informatics(HI)と称され、専門職が成立している。また、近年は大規模データベースや通信技術を駆使して広範な健康データを活用するHealth Information and Communication Technology(HICT)の分野が急速に発展し、専門性が確立しつつある。

HIM、HI、HICTの3つの専門領域の業務や課題は重層的で、相互に十分な情報交換と連携を図る必要がある。そして、3領域に共通する考え方は、情報とは、組織や社会を適切に運営して行くための戦略資源であるという位置付けである。情報は、今後の社会が求める説明責任、透明性、整合性、利用可能性等に対応するうえで、的確かつ効果的に活用されなければならない。

診療情報管理士は、今後の診療情報管理の領域が、隣接する専門領域との関連を深めながら急速に展開することが見込まれるなかで、自らの将来像を描いてゆくことが求められている。本指針が、そのための一助になることを期待する。