診療情報管理士業務指針

平成23(2011)年 9月28日

1.趣旨

2.業務の範囲

1)診療情報を体系的・一元的に管理する業務

2)診療情報を安全に管理する業務

3)診療情報を点検する業務

4)診療情報を有効に活用する業務

5)診療情報を提供する業務

3.業務実施の方法

1)診療情報を体系的・一元的に保管・管理する方法

2)診療記録を点検する業務の方法

3)診療情報管理における個人情報保護の方法

4)退院時要約により診療情報を活用する方法

5)医療スタッフ間における情報共有の支援者としての役割

4.当面取り組むべき環境整備

1)診療情報管理部門の組織としての確立

2)IT化に向けた課題

3)医療の指標化・可視化への対応

4)地域連携体制における診療情報管理

あとがき

1.趣旨

医療においては、適切で質の高い診療・看護がつねに求められているが、近年はとくに医療を受ける患者・家族の立場から、安全で安心な医療が強く求められている。診療情報管理は、質の高い安全・安心の医療を提供するうえで、次のような観点から極めて重要な意義と役割を有する分野である。すなわち、医療においては実施された診療・看護の事実とその経過、および診断所見や治療結果が、正確で論理的に記録されている必要があること、さらにそれらが妥当で適切なものであったのかを検証・評価することで、医療の質と安全性が保証されるからである。そして、診療情報の点検によって、医療上および病院マネジメント上の問題点を把握し、その改善を図ることで、質の高い効率的な医療を実現することが可能となる。

また、医療サービスは医師、看護師、薬剤師をはじめとする多くの専門職が、病院組織の中でそれぞれの役割に応じて業務を行っているが、それらの職種が緊密に連携してチーム医療を実践することが強く求められ、その意義が強調されている。つまり医師の包括的な指示の下で、多様な医療スタッフが各々の高い専門性を前提に、目的と情報を共有し、業務を分担しつつ互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供することである。有効なチーム医療を実践するためには、診療・看護をはじめとする各部門の記録が相互に参照可能となっていて、患者の情報が共有されていることが前提となる。共有されるべき情報が有効で合理性があり、相互に連携するうえで正確で整合のとれた情報が求められる。すなわち、情報の質保証とともに、診療情報学に基づいた診療情報の標準化と共通化の推進が図られなければならない。そして、自院における医療の記録のみならず、患者・家族の同意のうえで、連携している医療機関の診療情報も参照できるような診療情報管理が求められつつある。

一方、診療情報は守秘性の高い個人情報であり、適切な管理によって保護されなければならない。医療従事者には、従来から倫理的にも法制上も守秘義務が課せられてきたが、近年は個人情報を取り扱う事業者に対して法的な義務を明確にした個人情報保護法が施行された。個人情報取扱事業者である医療機関は、もっとも厳重に保護されるべき診療情報について、そのセキュリティの確保と、開示請求・訂正請求・利用停止請求等に対する適正な対応など、その適切な管理が求められるようになってきた。

安全・安心な医療を提供するに当たっては、患者に病状とその診断・治療に関する説明を十分に行い、それを理解・納得したうえで、患者自らの選択または同意に基づいて行うインフォームド・コンセントが必須の手順となっている。これは、診療情報を患者と共有することが求められているということであり、そのためには患者にもよく理解されるように配慮された説明書や同意書を準備しなければならない。侵襲の大きい処置や手術等の実施の際のみならず、入院時の入院診療計画書や、連携先の医療機関との一体的な診療手順である地域連携クリティカルパスの運用等にもインフォームド・コンセントが必要である。診療情報管理は、適切なインフォームド・コンセントの実施のためにも重要な役割を担っている。

診療情報の適切な管理とその活用は、臨床研究または疫学調査にとっても欠かすことができない。また、診療情報は医師、看護師、薬剤師等の医療専門職の教育・研修のためにも重要な意義を持っている。とくにそれぞれの専門職養成における臨床研修や臨地実習は、制度的にも必須の課程であり、診療情報の解釈や運用を学習することにより医療専門職として養成される。教育・研修における診療情報の活用に当たっては、守秘義務の遵守や情報のセキュリティの徹底など、医の倫理や患者の権利擁護の観点から適切な管理が必要である。

近年、診療情報管理の業務を担う専門職である診療情報管理士の養成数が急増している背景には、医療の現場において合理的で有効な診療情報管理の必要性がますます高くなってきているからである。日本診療情報管理学会が診療情報管理士の業務指針を作成することの基本的な趣旨は、今後さらにその必要性が高まるであろう診療情報管理について、その業務の範囲と実施方法を体系的に取りまとめて広く示すことにより、診療情報管理業務の質的向上を図るとともに、診療情報管理士の専門職としての身分を確立し、将来に向けて一層の発展を期そうとするものである。

2.業務の範囲

診療情報管理士は、医療機関において管理者の監督の下に次のような業務を行う。

1)診療情報を体系的・一元的に管理する業務

医師・看護師や薬剤師・栄養士・理学療法士等が記録した医療情報を所定の様式と手順で収集し、患者情報として一元的・体系的に整備して管理する。

  1. ①入院診療記録は、患者の退院後、速やかに完成させ、適正に保管・管理すること。
  2. ②過去の入院診療記録、外来診療記録等について、容易に参照できるように保管・管理すること。
  3. ③看護記録、服薬管理記録、栄養指導記録、リハビリテーション記録等、他職種の記録または情報を患者の記録として一体的に管理し、迅速かつ容易に参照できること。
  4. ④診療記録の保管・管理の規則を確立すること。
  5. ⑤保管場所の確保と合理的な設備や保管方式によって運用すること。
  6. ⑥診療情報を適切に管理するために、積極的に情報機器の活用や電子化を図ること。

2)診療情報を安全に管理する業務

作成された診療記録または収集された診療情報は、厳重に管理されるべき患者の個人情報であり、棄損または所定の場所からの紛失や情報の漏洩があってはならない。また、運用の過程で診療記録の取り違えや誤認があると、深刻な医療事故を引き起こす可能性がある。診療情報を安全に管理することは、診療情報管理士の重要な業務である。

  1. ①診療記録または診療情報は、いわゆる「1患者・1診療記録」の考え方で一元的に管理すること。
  2. ②診療記録の取り違えが起こりにくい保管方式とすること。
  3. ③診療記録の盗難や診療情報の流出・漏洩を防止する仕組みで運用すること。
  4. ④診療情報へアクセスする権限を明確にし、患者情報のコピーやダウンロードができない仕組みとすること。
  5. ⑤診療記録の所在をつねに把握できるようにし、閲覧や貸し出しの規則に則り適切に運用すること。
  6. ⑥重複処方や重複検査が回避できるように、他科の処方や検査に関する診療情報が参照可能とすること。

3)診療情報を点検する業務

診療記録は、実施された一連の医療行為が正確に記録されたものでなければならず、その確認のための点検作業は診療情報管理業務の基本である。医療の提供において、診療内容を記録として残しておくことは、いくつかの観点から重要な意義と役割を有する。近年は医療の質向上や安全の確保が強く求められているが、必要な記録が正しく記載された診療記録は、そのために有効に活用することができる。また、医療環境は財政的にも厳しさを増しており、健全な病院の運営や経営のためにも、診療情報を的確に把握・分析することが不可欠になっている。

診療情報管理士は、下記のような診療情報を管理することの意義とその価値をつねに念頭に置きながら、記録を点検する業務に臨まなければならない。

  1. ①診療情報は、患者自らの傷病に関する重要な情報であり、患者の求めに応じて、いつでも正確で得心のいく情報を提供できるように管理すること(患者にとっての価値)。
  2. ② 診療情報は、医師・医療従事者が実施した医療内容と、その経過および結果を確認することができるように記録され、事後的に検討可能なように管理されていること(医師・医療従事者にとっての価値)。
  3. ③ 診療情報は、病院の組織的な診療活動の実績や、施設・設備の利用状況を把握できるように抽出・加工され、管理統計として活用されていること(病院にとっての価値)。
  4. ④診療情報は、診療の過程において適切な判断がなされ、必要な医療を適正に実施したことを証明できるように記録され、管理されていること(法的証拠としての価値)。
  5. ⑤診療情報は、各種の疾病統計や死因統計に役立てられ、感染症対策等の公衆衛生上の問題に対応できるように記録され、管理されていること(公衆衛生上の価値)。
  6. ⑥診療情報は、臨床研究や疫学調査等により、有効な診断・治療方法の開発・評価、新たな疾患の発見等のために活用できるように記録され、管理されていること(医学研究上の価値)。
  7. ⑦診療情報は、診療報酬請求上の根拠として、診断名や診療行為等が規則に基づいて適正に記録され、管理されていること(医療保険上の価値)。

4)診療情報を有効に活用する業務

診療情報を、医療の質や効率の向上などのために有効に活用することは、診療情報管理士の重要な業務である。とりわけ、診断名や手術などの診療行為を適切なコード体系によりコード化することは、専門性の高い基本的業務である。また、退院時要約等を含めた多岐にわたる診療情報から有効に活用し得る情報を抽出して集積し、診療報酬等の情報と関連させて病院の運営に資するように分析することも行われる。

  1. ①診療情報における診断名等はICDにより正確にコード化され、患者数やその疾患構成を把握するとともに、必要に応じてDPCによる診断群分類を行うこと。
  2. ②退院時要約の様式を定め、診療科別・疾患別在院日数等の分析を行うこと。
  3. ③入退院経路に関する情報から、紹介率等の医療連携の状況について把握すること。
  4. ④院内死亡率や再入院率、あるいは術後の合併症発生率等の臨床指標により、医療の質の評価を試みること。
  5. ⑤診療情報と医事会計情報等の医療費に関連した情報を組み合わせて分析し、診療科別・疾患別診療収入や経営効率に関する検討を行うこと。
  6. ⑥医療安全上の検証を行い、事故防止に活用すること。

5)診療情報を提供する業務

さまざまな場面での診療情報提供は、個人情報保護法等を踏まえて適正な対応を必要とする。診療記録の貸出・返却、および督促業務は、紛失予防の点から万全な管理をしなければならない。可能ならば、診療記録は所定の場所で閲覧できるよう工夫する。

  1. ①臨床研究、学会発表等に必要な場合には、速やかに情報提供すること。
  2. ②患者・家族からの診療記録の開示請求に対する手順を確立し、適切に運用すること。
  3. ③捜査機関や行政からの診療情報の提供要請に対し手順を確立し、適切に運用すること。
  4. ④訴訟に関連した診療記録の証拠保全に、適切に対応すること。
  5. ⑤同意書・承諾書、あるいは入院診療計画書やクリニカルパス等、インフォームド・コンセントに関連した業務に適切に関与すること。
  6. ⑥医療機能情報提供制度の診療情報の提供に適切に関与すること。
  7. ⑦がん登録やその他の症例登録システムの診療情報の提供に適切に関与すること。

3.業務実施の方法

診療情報管理士の業務を遂行するうえでの基本的な事項と、その方法や留意点は下記のとおりである。

1)診療情報を体系的・一元的に保管・管理する方法

診療情報は、「1患者・1番号・1診療記録」の考え方で体系的に管理されることが基本である。医師が記録する「診療録」が基本となるが、看護師や薬剤師・栄養士・理学療法士等が記録する業務記録についても、迅速に参照することが可能となっている必要がある。そして、職種間で相互に情報共有できるように、一元的に管理されることが望まれる。

診療記録の保管・管理には、具体的には次のような方法がある。

  1. ①診療記録の電子化は、より合理的な診療情報管理を行ううえで極めて有効である。広く定着しているオーダリング・システムでは、本来の指示業務や会計業務の合理化とともに、他科の処方オーダや検査結果を迅速に確認できるので、複数科受診の患者の診療に有効である。
    電子カルテ・システムを運用している場合は、時系列的な情報の一元化や他科・他職種の診療情報の共有化を容易に行うことが可能で、もっとも合理的な診療情報管理を実現することができる。
  2. ②患者番号は、当該医療機関内で永続的に変わることのない固有の「患者ID番号」として付与し、医事業務を含むすべての診療業務の記録において使用する。
  3. ③退院ごとに番号を振り直す「退院番号」や、各診療科で別々の患者番号を使用することは適切ではない。また、患者の姓名の頭文字やそれを数値で置き換えたような患者番号も、同姓・同名による患者誤認を防止する観点から見直すべきである。
  4. ④診療記録の保管については、同一患者の過去の入院診療記録は時系列的に1診療録として合冊するか、各入院診療記録を同一箇所に保管して1ファイル化する。
  5. ⑤外来診療記録は、各科共通の様式で記録し、ID番号により1ファイル化して管理・運用する。各科とも同一診療記録に時系列に記録する方式は、他科の所見や、処方、検査指示を確認できるので、重複投与や重複検査の回避の観点からも望ましい。また、入院診療情報との一元化を図るうえで、前回入院時の退院時要約の写しを外来診療記録に添付することは有用である。
  6. ⑥紙カルテの場合、紛失が無いように、また迅速に取り出すためには、ID番号に基づいた診療記録の保管は、末尾番号に基づいた「ターミナルディジット方式」が推奨される。
  7. ⑦看護記録、服薬管理記録、栄養指導記録、リハビリテーション記録等、他職種の記録は、迅速かつ容易に参照できるようにする。同一診療記録に、異なる多職種が時系列に記載してゆく方法は、チーム医療を推進するうえで有効である。

2)診療記録を点検する業務の方法

行われた医療行為、それに伴う記載内容が妥当であるかを点検する。つまり、医療提供の計画、医療行為、およびその結果を客観的に検証することである。ピアレビュー(同僚監査)として、病院が任命する医師や看護師が監査チームとなって行うこともある。点検業務は、指導的立場の医師によって行われることが多いが、診療情報管理士は積極的に関与し、中心的役割を担う必要がある。

点検業務は、主として記録の有無に関する量的点検と、記録の精度や質に関する質的点検に大別される。その実施については本学会「診療録記載指針」に照らして適切に行い、次のとおりとする。

量的点検業務
  1. ①手術記録や説明と同意の記録など、備わっているべき記録の欠落の有無。
  2. ②記載者の署名や日付など、記載が決められた項目の不備。
  3. ③記録が定められた順序に整備されている。
  4. ④不必要な記録や、他の患者の記録混入の有無。
  5. ⑤電子カルテにおける点検業務も上記に準ずる。
質的点検業務
  1. ①傷病名と処置・手術・処方などの医療行為、各種同意書など記載内容の整合性。
  2. ②診療のプロセスが第三者や家族に理解できる記録である。
  3. ③医療従事者間の記録内容に食い違いや乖離がない。
  4. ④多職種にわかるよう情報の共有化のために外国語、略語の乱用がない。
  5. ⑤提供された医療の質的水準が適切であり、医療安全上の問題がない。
  6. ⑥「予期せぬ集中治療室への搬入」、「計画なき退院後早期の再入院」、「予定より大幅に入院期間が長期化した要因」などの指標を設定し点検評価する。

点検の結果は、関係者にフィードバックすることにより改善につなげ、良質な記録の整備に向けた継続的な取り組みを図ることが肝要である。

3)診療情報管理における個人情報保護の方法

診療情報は、その取扱いにもっとも配慮すべき患者の個人情報であって、外部に漏れないように、また重要な個人情報が紛失・破損しないように、厳重な安全管理とセキュリティの確保が求められる。診療情報管理においては、個人情報保護法の遵守とともに、医療従事者ならびに関係者の守秘義務を徹底しなければならない。

具体的には下記のような事項に留意すべきである。

  1. ①保管されている診療記録を閲覧し、必要に応じて外部に貸し出すことを認める場合には、その資格のあることを確認したうえで、明確な規則に基づいて運用しなければならない。
  2. ②オーダリング・システムや電子カルテ・システムの運用においては、関係者にID番号を付与するとともに、パスワードを設定して情報にアクセスできる権限を明確にしておかなければならない。また、業務端末から患者情報を記録媒体へダウンロードできないような仕様とすべきである。
  3. ③研修・教育、あるいは学術的研究・報告の目的で患者の診療情報を外部の情報機器やメモリ媒体に入力・保存する場合は、姓名や年齢によって個人が特定されないように匿名化し、それらの紛失・盗難には十分に注意することを徹底する。
  4. ④電算室や情報管理室の入退室は厳重に管理して、情報の保全や機器の盗難防止を図るとともに、情報機器の廃棄や移転の場合は、個人情報が再現されないように、完全な消去処分を行う。また、外部からのハッカー侵入防止や、ファイル交換ソフトの使用禁止も徹底しなければならない。
  5. ⑤個人情報が流出、またはその恐れのある事態となった場合は、流出経路と流出した情報の範囲を明らかにすることに努めるとともに、当事者である個人への連絡と再発防止の対策を講じなければならない。

4)退院時要約により診療情報を活用する方法

診療情報の効果的な活用には、「退院時要約情報」の適切な収集・把握と、目的に合わせた的確な情報処理が基本となる。退院時要約情報の中でもっとも基本的な情報が診断名であり、それをICDコード体系によりコード化することが、診療情報管理士の主要な専門的業務の一つとなっている。近年、このコード化に基づいた入院基本料の支払い方式であるDPC/PDPSが急速に普及して、DPCによる診断群分類方法もさらに精緻化している。

退院時要約とコーディングに関する基本的な方法は以下のとおりである。

  1. ①退院時に把握すべき情報項目として、患者基本情報、診断名(主病名と副病名)、手術実施の有無と手術名、入退院日時と入退院経路、転帰等を定め、全診療科共通の退院時要約の様式として運用する。
  2. ②診断名、手術名等は適切なコード化を行って、必要な分類や統計処理を行う。とくに診断名についてはICD -10 のコード体系で正確にコーディングを行い、DPC対象病院においては制度の定める診断群分類と、必要な医事会計情報により入院診療報酬請求を行う。
  3. ③退院時要約情報を活用すれば、患者数、平均在院日数、病床利用率、手術実施件数、およびこれらの診療科別・疾患別分析や時系列的な変動等に加えて、入退院の経路や患者紹介率等の医療連携状況を、全病院的に把握することができる。また、院内死亡率、再入院率、あるいは術後の合併症発生率等の指標により、医療の質の評価が可能となる。
  4. ④退院時要約情報に毎月の医事会計情報を組み合わせると、1日当たり入院医療費(入院診療単価)や1入院当たり入院医療費、およびそれらの疾患別分析や時系列変動を見ることが可能となり、病院経営データとして活用することができる。
  5. ⑤特定の課題の臨床研究や疫学調査のために、退院時要約情報に追加項目を設定して一定期間運用することも行われる。診療情報を、患者データベースとして構築することにより、目的に応じて柔軟に活用できるようにすることができる。

5)医療スタッフ間における情報共有の支援者としての役割

診療情報管理士は、病院内では診療情報を介してすべての医療従事者と、日々コミュニケーションが保持されている。すなわち、各診療部門からの診療情報データを把握できる立場にあり、職種間の情報共有の支援者として業務の円滑な遂行を図るという重要な役割を担っている。

診療情報は、関係者に説明して理解や了解を得るために、すなわち説明責任を果たすために適切に提供される必要がある。とりわけ近年は、患者・家族に十分に説明し、納得して同意を得たうえで医療を提供することが必須の手順となっている。これに伴って、診療情報管理士は適切な書式の整備と様式の標準化を行う役割を担っている。

また、医療安全に関連した紛争が繰り返されていることもあって、調停や訴訟に関連した診療情報の提供にも対応する必要がある。証拠保全等の手続きによって、原本または正本を提出する事態があり得るが、これらの文書提出が適正かつ円滑に実施できるよう支援することが望まれる。

診療情報提供の主要な場面と留意点は下記のとおりである。

  1. ①入院診療計画書、手術・麻酔等に係る説明書・同意書、クリニカルパス説明書など、患者・家族に説明するための文書は、一義的には医師または看護師が作成し、それに基づいて説明するが、文書・書類の整備は診療情報管理業務の対象となる。すなわち、それらの作成の準備や不備の是正については、診療情報管理士も関与する。
  2. ②医療上の紛争に関連して、患者・家族から診療記録の開示、または謄写の請求があった場合、その実務について診療情報管理士の対応が求められることが少なくない。その場合は、定められた規則に基づき、適正な手順で実行する。訴訟手続きにおける証拠保全として、診療記録の原本が対象となる場合も同様である。
  3. ③警察や検察等の捜査機関から診療情報の提供要請があった場合は、個人情報保護の観点からその妥当性を確認したうえで適切に対応する。
  4. ④「医療機能情報提供制度」においては、所定の項目に沿って病院の診療機能の現状と実績に関する情報の提供が義務付けられたが、関連する項目については診療情報管理の対象業務として関与する。
  5. ⑤今後の医療提供体制の整備の一環として、「がん登録」、「脳卒中登録」、あるいは「外傷登録」等、各領域での登録業務の実施と充実が強く求められている。これらは従来から診療情報管理の重要な対象となっており、病院の使命や役割に応じて取り組む必要がある。

4.当面取り組むべき環境整備

時代の推移とともに医療環境が大きく変化し、情報技術も著しく発展を続けているなかで、診療情報管理業務における今後の環境整備に向けた課題は少なくない。

1)診療情報管理部門の組織としての確立

本指針で示してきた診療情報管理の業務を適切に遂行してその役割を全うするためには、病院において診療情報管理部門が組織的に明確に位置付けられる必要がある。診療情報管理部門の組織的確立は時代の要請であり、第一に取り組むべき課題である。

具体的には次のような組織体制をとることが望まれる。

  1. ①診療情報管理部門は、組織的には病院管理者の直轄下にあり、日常的に診療情報を把握して有効に活用できる基幹部門であることが望ましい。また、各診療科・各部門と横断的に連携・調整できる位置付けにあれば最良である。
  2. ②診療情報管理部門は、中央診療施設部門または診療補助部門の一つとして、病院情報システムの運用を担う機能を合わせ持った独立した組織として位置付けられることが望ましい。
  3. ③診療情報管理部門は、医事課内の病歴室のような部署から発展してきた事例が多いが、今後は電算室の機能と一体化した情報管理部署として、各診療部門と緊密に連携できる位置付けにすることが望まれる。
  4. ④診療情報管理業務を、外部の専門的事業者に業務委託する病院も少なくないが、そのような場合でも病院の固有職員の立場である診療情報管理士が確保され、情報管理業務全般を把握して適切に組織管理をする必要がある。

2)IT化に向けた課題

近年、従来の紙面に記載する診療記録から、コンピュータに入力して電算処理する診療情報システムへと大きく移行している。法制上も電子媒体による記録が認められて電子カルテ・システムが普及しつつあるが、移行期の労力や費用の負担、すべてをペーパーレス化できない場合の運用、あるいは紙媒体上の過去の記録またはデータとの整合等の問題が残されている。また、システム・ベンダーを変えると業務手順も異なり、従前からの連続性を図ることが困難な場合もある。しかし、IT化の合理性は疑いのないところであり、それによる診療情報管理の成果は大いに期待できる。病院の規模や役割に応じて、より効果的方法と手順によって診療情報管理業務がIT化されることが望まれる。今後は、多くの患者の診療情報が累積されて患者データベースが構築されることになるが、診療情報管理士は目的に応じてこのデータベースを解析し、有効に活用することが重要な課題となる。

3)医療の指標化・可視化への対応

近年、患者・国民は、医療の機能や質的水準を数値や指標で可視化し、より分かり易い説明を求めるようになった。かつては、医療に関する広告は、患者が不当に誘引される恐れがあるために限定的な事項以外は禁止されてきたが、最近は検証可能な事実は積極的に広報することがむしろ必要であるとされている。患者・国民が求めている様々な医療に関する情報を、分かり易く図表等で見えるように示し、他の事例とベンチマークすることが一般化しつつある。診療情報は多岐にわたっており、その指標化・可視化も多種・多様になることが見込まれる。具体的にどのような指標を採用するか、趣旨や目的に応じて十分に検討する必要がある。

一方、医療の質に関する指標としては、古典的なアウトカム指標である「院内死亡率」や「がんの5年生存率」から、たとえば今日的なプロセス指標である「診療ガイドラインの適用率」まで、多くの指標が運用されている。また、患者の主観的な視点からの評価指標も重視されており、「患者満足度」や「Quality of Life」の観点からの評価指標も検討対象となっている。いずれも有効で適切な指標を得るためには、診療情報管理業務として対応する必要があり、今後の主要課題の一つである。

4)地域連携体制における診療情報管理

今後の医療提供は、がんや心筋梗塞等の主要疾病、あるいは救急や小児等の各医療分野のそれぞれについて、切れ目のない医療連携によって提供することが求められている。すでに、大腿骨頚部骨折や脳卒中に「地域連携クリティカルパス」が適用され、連携する複数の医療機関で一体的な診療計画が立てられるようになりつつある。このような連携体制下での診療情報管理のあり方が検討される必要がある。連携する相手の医療機関の診療情報に相互にアクセスできるようにすることの是非や、在宅医療・在宅ケアにおいて医療・介護に関連した多職種のスタッフが関わる場合の情報共有の方法など、医療連携における診療情報の課題は少なくない。医療連携は今後さらに強化され、地域包括ケア体制に向けた取り組みが推進されることが見込まれている。このようななかで、診療情報管理士の業務はさらに拡大することになろう。

あとがき

本指針においては、診療情報管理士の業務について、その趣旨と基本的なあり方、業務の範囲および業務実施の方法について取りまとめた。近年、医学・医療が著しい発展を遂げる一方で、医療者と医療を受ける者の相互の関係も大きく変化している。そのようななかで、サービス提供の実体を診療情報として把握し、管理して活用することの意義が強く認識されるに至った。そして、それを業務とする専門職である診療情報管理士の役割と責任もますます重要となっている。

診療情報管理士は、医学・医療の進歩と情報基盤の拡大、および時代環境の変化・発展に的確に対応し、社会の負託に応えなければならない。そのためには、絶えざる研鑽により新しい情報管理の概念や知識・技術の修得に努め、良質で安全な医療の提供に資するよう努力を怠ってはならない。本指針が、そのために役立てられることを期待する。